『こちら横浜市港湾局みなと振興課です』
真保裕一 著
文藝春秋
2018年
横浜市の名前の由来は確か「メインではない横っちょの浜」からきている、と聞いたことがあります。
ペリーが来て、開港をせまられた時に、幕府は江戸時代の政治経済を支えている東海道の宿場町の一つ、神奈川宿よりかなり離れた、漁業も農業もイマイチの寒村「横浜村」を提供したのだそうです。
そんなパッとしない貧乏な村が160年の時を経て、とある不動産会社の「住みたい街ランキング」に堂々一位に座すほどに発展を遂げるとは、幕府側の人間も、ペリー側の人間も、予想できなかったに違いありません。
そして、その発展はいつも右肩上がりではなく、山もあり、谷もあり、富を得る者もあれば、犠牲となる者もあり、震災、戦災、その他数々の黒歴史がまとわりついて、一言では語りつくせないのですが、この小説では「一言では語りつくせないこと」に気付かせてくれると思います。
現地を実際に足で歩いた上、丁寧に書かれていることが随所に感じられます。横浜の暗部を探る暗いミステリーだけで終わらないために、主人公に関わる人たちの軽妙な会話や、物語の最後では前向きなエピソードでしめくくくるなどの工夫で、明るい方向に持って行ったのでしょうが、最後がストンと落ちずに推測で終わってしまったのが残念です。
横浜の発展は、今後は大事なものを失わないように慎重にしていって欲しいなと思います。
そして、そもそものメイン都市「神奈川」にも、もうちょっと頑張ってほしいと願います。