D列車でいこう 

  

  「D列車でいこう」

   作 阿川大樹

   出版社 徳間書店

 

 銀行の支店長まで出世するも,「ここは自分の居場所ではない」といつも感じている銀行マン,MBAを取得していながら,男社会の中でくすぶっているキャリアウーマン,官公庁を早期退職して悠々自適の日々を送る鉄道マニアの3人が,廃業間近の山花鉄道再建に挑む話です。

 綿密な設計図のもとに組み立てられたストーリーにすぐに引き込まれていきます。難しい専門用語などもなく,団塊世代の郷愁を誘うようなウィットが小粒ながら効いていると思います。若い世代の読者にとってはこれがある意味「専門用語」になるのでしょうが。

 そんな設計図通りの物語の中で,気になる点が一つ。

 キャリアウーマンがセクハラを受けたと仲間に告白する場面があります。彼女は仕事がしにくくなるので相手の名前はプロジェクトが全て終わるまで言わないといいます。

 結局,相手がだれであるのか明かされないまま物語は終わるのですが,いったい誰なのかとても気になります。

 もしかすると次回作の伏線では…と思うのは考えすぎでしょうか。

 いずれにしても阿川作品,今後も色々と読んでみたいと思わせる一冊でした。